大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和41年(行コ)5号 判決 1967年2月07日

山口市大字道場門前四一番地

控訴人

株式会社杉本運動具店

右代表者代表取締役

杉本耕作

右訴訟代理人弁護士

徳富菊生

同市大字今道

被控訴人

山口税務署長

坂本正作

右指定代理人検事

村重慶一

法務事務官 池田博美

大蔵事務官 三宅正行

同 岸田雄三

同 石田金之助

同 常本一三

右当事者間の昭和四一年(行コ)第五号審査決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三七年四月三〇日付でした、控訴人の昭和三五事業年度分(昭和三五年三月一日から昭和三六年二月二八日までの間)法人税確定申告に対する更正処分及び昭和三七年九月二九日付でした右確定申告に対する再更正処分(各加算税賦課決定処分を含む。)並びに同年四月三〇日及び同年九月二九日付でした昭和三六年分源泉徴収所得税の各賦課決定処分(加算税賦課決定処分を含む。)を、いずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人等は、主文と同趣旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠は次の点を付加訂正する外は、原判決の事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、被控訴人のした更正処分は、法人税法第三〇条(更正処分当時の同法第三一条の三にあたる)を適用してなされたものと考えられるが、同条は当該行為が純経済的に見て不合理な行為と認められる場合に適用されるものと解すべきである。

二、控訴人は本件増資株式の立替払込を、本来借方仮払金勘定、貸方山銀預金勘定と仕訳すべきところを、誤つて借方出資金勘定、貸方山銀預金勘定とし、これを看過して同一の誤りを繰返し、ひいては受取配当金の法人所得金額からの控除、或いは配当金に対する所得税額の法人税額からの控除計算という誤つた処理を行うに至つたものである。ところが、右誤謬を発見したので、その訂正として、借方仮払金勘定、貸方出資金勘定の振替仕訳を行うとともに、昭和三五事業年度分は正当な仕訳を行つたものである。

三、右のような訂正処理は簿記会計ないし計理事務処理の原則から当然のことであり、租税の回避や隠れた利益の処分を伴うものではないから、前記法条を適用すべきものではない。

四、以上の点は過年度分の決算が株主総会で承認決議された事実によつて左右されるものでなく、このことは、商法第二八一条の貸借対照表及び損益計算書の記載方法を定めた「株式会社の貸借対照表及び損益計算書に関する規則」第四二条第一項第三号に所謂過年度損益修正の規定が置かれていることからも明白であるし、実質課税の原則からも当然のことである。

(被控訴人の主張)

一、控訴人の記帳の誤謬訂正の主張は、増資新株の取得者が訴外杉本耕作であることを前提とするものであるが、控訴人と訴外美津濃株式会社とが取引関係にあり、杉本が個人営業時代から控訴会社に組織がえをした後も同種の営業を行つていること、控訴会社営業所と杉本の住所とが同一場所にあること、控訴人の保有株は勢能体育用品株式会社の株式を除いては全部杉本名義であること等をも考慮するとき、増資新株が形式上は杉本のものであつても、実質においては控訴人が取得したものであることは明白であるから、右主張は失当である。

二、尚本件更正は法人税法第三一条の三によるものではない。

(証拠関係)

被控訴人は乙第二二、第二三号証を第二二、第二三号証の各一、二と訂正した。

理由

一、当裁判所も控訴人の本訴請求を失当とするものであつて、その理由は次の点を付加、訂正する外は原判決理由と同一である(但し三の(一)(四)中の乙第二二号証、第二三号証を同号証の各一、二と訂正する)ので、これを引用する。

1  理由四、第二段中「帳簿計上をしていないことが認められ」より後を次のように改める。

以上に、当事者間に争ない損金計上源泉徴収加算税額四、四〇〇円、個人負担経費損金計上五万二、八〇〇円を加えたものを、控訴人が昭和三五事業年度課税所得額として確定申告をした八二万六、五四八円に加算した額につき、被控訴人が法人税法の関係法条を適用して本件更正処分、再更正処分をした(課税所得額が被控訴人主張額であるとき、税額が被控訴人主張額になることは控訴人も認めるところである。)ことは適法である。

2  理由五、「昭和三七年四月三〇日付で」以下を次のように改める。

所得税法第四三条第一項、第五六条第四項により、右合計額を杉本の他の給与所得等に加算した上関係法条を適用して行つた本件二回の源泉徴収所得税及び加算税賦課処分(右加算所得が認められる場合、徴収税額が被控訴人主張額となることについては当事者間に争がない。)は適法である。

三、控訴人の当審での主張はすべて本件増資新株の取得者が、当初から杉本耕作であつたとし、従前の控訴人の計理事務の処理に誤りがあつたことを前提とするものであるから、採用しがたい。

四、そうすると、原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三宅芳郎 裁判官 辻川利正 裁判官 裾分一立)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例